料理は簡単なものなら作れるが、パンを焼くとは想像もしていなかった中高年男子によるパン作りの顛末記。果たして決して器用ではない初心者がパンを作るなんてことができるのか!?
妻がホームベーカリーを使ってパンを作るのを
はたから見ていた記憶はあるが…
パンを食べることは大好きだ。美味しいパンを食べるために交通機関を乗り継いで店に行くこともしばしば。しかし自分でパンを作るというのはこれまでほとんど考えたことがなかった。その中身は熟練のパン職人がきっと、ものすごい技術を駆使して複雑なことをしているのだろうと、はなから考えないようにしてきた。
もちろんかつてホームベーカリーを導入したことくらいはある(妻がそれを使うのを見ていただけだが)。実際に出来上がったパンはそれなりに美味しかったが、その工程は依然として閉じられたブラックボックスの中。何がどうなってパンになるのかもはっきりとはわからないまま。数回は試したが、付属のイースト菌がなくなったあたりで、棚の奥へとしまいこまれて、2度とキッチンに登場することはなかった。
“こねることしかできないんで”と呟くかのごとく
単機能に徹した職人的佇まいの「パンニーダーPK660D」
ところが今回縁あって、日本ニーダーのパンこね機「パンニーダーPK660D」を試用する機会に恵まれた。これは小さなカフェの自家製パン作りにも使われているマシンなんだとか。つまり半分業務用としての能力もあるパンこね機。
何より”パンをこねる”単機能マシンというのが本格派好きの趣味心をそそる。ちなみにニーダーのニードとは、こねるという意味。
さらにこのパンこね機の核となる技術が特許取得の形状を持った”羽根”。この羽根パーツが熟練職人並みの”こね”を実現するのだとか。
このコンパクトな羽根がとても優秀らしい。
粉が飛ばないように2段階のフタも付いているが、製作中のパン生地の様子が丸見えのスケルトン構造。
大方のホームベーカリーが炊飯器と大差ないルックスなことを考えると不思議な形状の「パンニーダーPK660D」。もちろんこの面構えには理由がある。パンは発酵が命。なのでモーターの熱を伝えやすい密閉形状は生地の温度が上がりすぎて不利なのだという。その点「パンニーダーPK660D」は外にポットを備えていることでモーターの熱の影響を受けないのがポイントである。
機能面も至ってシンプル。いじれるのはこねるスピード、こね時間を決めるタイマーの二つだけ。何というわかりやすさ。
しかも今回は「洗えてたためる発酵器 mini PF100」も試用できるというから、カフェ好き、自家製パン好きとしては大いに興味を惹かれた。これならホームベーカリーが隠し続けてきた内部の秘密が垣間見れるかもしれない。
工具不要で簡単に組み立て可能、下部に熱調整可能な鉄板を備えた、これまた”発酵するだけ”という単機能に徹した潔い「洗えてたためる発酵器 mini PF100」。こちらも発酵温度を右オレンジのボタンで設定するだけ。庫内温度を見ながら調整するだけ。もはやこの潔いシンプルさは美学の領域。
それでは人生初のパン作りに挑戦してみよう!
用意したのは、強力粉300g/砂糖20g/塩4g/30〜35℃のぬるま湯204g/無塩バター15g/ドライイースト6g。バターは室温に放置して柔らかくしておく。
何しろ最初のことなので、欲をかかずに”食べられればいい”という意識で、同梱されていた一番シンプルなレシピ「80分でできるお手軽パンレシピ」に挑戦する。
まず最初にこね終わった生地を入れるために、「洗えてたためる発酵器 mini PF100」を35℃に設定して予熱しておく必要がある。クーラーをガンガンに入れている我が家なので、目標温度到達まで結構時間がかかった。
材料はキッチンスケールでグラム単位できっちり測るのがポイントだと、パン作りの本を見るとどの本もそう書いてあるのでぎっちり測る。
無塩バター以外を一気に投入。
最初は粉が飛ばないようにフタをしておいた。
タイマーを15分に設定、スイッチオンでニーディング(こね)開始。あっという間に粉が粘度を増して固まっていく。酸味のある不思議な匂いが漂う。正直臭い。ニチャニチャした見た目も不思議。これで合っているのだろうか。
開始5分で柔らかくなった無塩バターをヘラで三分割量で生地につけて行くのだが、これが予想外。生地に触れると、力強いこねっぷりにヘラごと手を持ってかれそうになる。考えた末、ポット内の生地が通り過ぎた瞬間にサッとポット内部になすりつけるようにした。
見ているとただ丸めてるだけではなくて、遠心力で生地が伸びたり、縮んだり、投げ飛ばすように動いた上で、それをまとめていったりと、生地が不思議な動きをして実に楽しい。まるで中に職人が入っているような謎の動きに驚く。これが特許の羽根の実力か。ホームベーカリーでは望めない、内部の様子が手に取るようにわかる。慣れた人なら時間がどうというよりも生地の状態を見て、こね具合を判断できるのだろう。そうなってみたいものだ。
15分のアラームが鳴ったので、発酵器に移すのだが、ポットごとこうして外して、
そのままイン! 35℃で20分。キッチンタイマーで測る。設定を35℃にしていたら、ドアを開けて生地を入れるのに手間取っていたら34℃に下がってしまった。
とはいえ時間が経ったので取り出し。これは、発酵しているのか、本当に!?
生地を取り出す。手にはくっつかないように小麦粉をまぶしておく。以前そば作りの時に学んだ打ち粉テク。
均等に切っていく。いや、これは無理。何たる不器用、全然大きさが違う…。ここで妻にヘルプを要請。
生地を丸めて、付属のパン型に並べてもらう。
再び発酵器に入れて仕上げの発酵を35℃で25分。ここら辺になると、これらを”うちの子たち”と呼びたい気分にかられる。
発酵している間にオーブンレンジを190℃に予熱。15〜20分焼く。
発酵が終わった(気がする)生地を取り出して、
オーブンへ。上段か下段か悩みつつ、上段へ投入。時間があったので、入れる前に卵の黄身を表面に塗ってみた。レシピにはなかったが、焼き色がきれいになるとパン作りの本に書いてあったので。
中の様子が全然見えない。少しすると不思議な香りが漂ってきた。そして確信する、これ、焦げてない?
焦ってオーブン上段から下段に移して再び焼き。うちの子たちも、もはやこれまでかと思いつつ。
15分経ったので出してみるとこの通り。
最初の挑戦は大焦げの大失敗! と思ったら…
しっかり焦げた。
最初からそう簡単に上手く行くはずがないと、心のどこかでは感じていた。世の中はそんなに甘くないと。しかし、念のため食べてみる。
あれ!? 美味しい…。
確かに焦げのひどい部分は炭の味だが、うまいこと避けて食べると、穀物の香りと甘みのする美味しいパンの味。目を閉じて食べれば、レストランのランチなどで食前に出てくるおかわり自由の手作りパンの味がするではないか。どういうことか。
初戦の成果はこの通り。一見美味しそうに見えるし、実際美味しかった。
だがその陰にはこうした犠牲者もいたのであった。
ホームベーカリーのように全てお任せではなく
パン作りの工程をしっかり目で見て楽しめるから楽しい!
すっかり焦がしつつも、最終的に美味しかったせいもあるが、やはりこの「パンニーダーPK660D」の魅力は、工程を目で見ながらパンを育てるかのように作ることができることだと感じた。目安時間もあるが、自分の目や感触で生地の練られ具合、発酵具合を確かめつつパン生地を仕上げて行くという工程は、己れの力や能力の介在する余地が残されていて、そこが醍醐味と感じた。
それでいて使う体力が少ないというのもポイントだ。ニーディング(こね)作業を見ていて思ったのだが、あんなに激しく15分間もこねるのは体力に自信のない自分には不可能だと自信を持って言える。
そこだけ「パンニーダーPK660D」という職人を雇って、自分の好きなこね具合までやらせてしまうこの気分は何とも贅沢。今回のパンが大いに焦げつつ発酵ももう一つだったかもしれないが、しっかり美味しいパンに仕上がったのは、その職人のこね技にあるのではないか。
一度このオールインワンではないパン作りを体験してしまうと、もうホームベーカリーのようなブラックボックスに材料を詰め込んで出来上がりというのは、物足りなくなること確実だ。本格的なパン作りを趣味にしたい人から小さなカフェで自家焙煎コーヒーとともに手作りパンを提供したい店の人など、パンの魅力を発信したい人にとって素晴らしい製品だと思った。
⇒ 家庭用パンニーダー PK660D はこちらから
⇒ 洗えてたためる発酵器mimi PF100 はこちらから
文/清水りょういち 撮影/清水葉子